オフィス・アップサイジング

home  writing's index  プロボノ
記事・論文

NHK視点論点「プロボノの広がりと可能性」

 

ここ数年、日本国内でも「プロボノ」と言われる、新しいボランティアの形に注目が集まっています。

「プロボノ」とは、「公共善、公共の良きことのために」を意味するラテン語「Pro Bono Publico」に由来する言葉で、仕事を通じて培った経験や専門スキルを活かしたボランティア活動のことを言います。

例えば、弁護士の資格を持つ人が、地域のお祭りの運営を手伝うのは、一般的なボランティア活動ですが、プロボノとは言いません。これに対して、弁護士の人が、例えば、東日本大震災の被災者に法律相談を無料で行うことはプロボノと呼ぶことができます。同じように、企業で経営戦略を担当している人が、NPOの経営戦略をサポートすることや、デザイナーとしてホームページやパンフレットのデザインを本業としている人が、NPOのホームページなどのデザインを手伝うことはプロボノということができます。

「プロボノ」が広まりを見せる背景には、日本国内でも、着実に、NPOや社会起業家といわれる、社会的課題解決に取り組む団体が育ってきており、人々の中に、そうした活動に関心を持つ人が増えていることが挙げられます。

毎日読む新聞でNPOの文字を見かけない日はないと思います。また、社会起業家が書いた書籍が書店に並ぶことも珍しくなくなりました。NPOに関わっている、あるいは、身近な人の中に、NPOを立ち上げたり、NPOで働き始めた人がいる。そんな人も少なくないのではないでしょうか。特に、働き盛りの世代にとって、「社会にイイコト」をしながら、「自分も食べていける」という、NPOや社会起業家の存在は、自分自身の働き方、生き方を考える上で、大変関心の強いものです。

プロボノとは、こうした働き盛りの世代にとって、日頃のビジネスで培ったスキルや経験を存分に活かして取り組むことができ、やり甲斐を感じられるボランティア活動となっています。また、プロボノとしてNPOの活動に関わることによって、日頃会社では得られないような経験や人脈が広がり、参加した人の人間的な成長につながったり、視野が広がったという声は、非常によく聞きます。その意味で、プロボノは、参加する企業人等にとっても、貴重な社会勉強の機会を提供してくれるものなのです。

同時に、さまざまな難しい社会的課題に取り組みながら、資金調達や人材の確保に悩むNPOにとって、プロボノは貴重な助けになります。
プロボノの力をうまく活用することで、ホームページやパンフレットを伝わりやすいものへと更新したり、企業に提案するための資料を作ったり、将来に向けた事業計画を議論したり、組織体制や業務上の課題を改善するなど、さまざまなことが可能になります。
プロボノによってサポートを受けたNPOは、新しくなったホームページがきっかけで寄付が増えたり、企業からの協賛を獲得したり、理事やスタッフの意識や仕事の仕方が変わったり、といった、さまざまな変化を実感しているようです。プロボノには、NPOを活性化し、社会的課題解決に向けてより効果を収められることを後押しする力があるのです。


実は今、「プロボノ」の動きは、日本だけでなく、世界各地に広がりを見せています。
私は、今年2月末に、アメリカのニューヨークで開かれた「グローバル・プロボノ・サミット」という、米国はもちろん、日本を含む世界12ヵ国から、プロボノの仲介に取り組む団体が一堂に集まる世界初のイベントに参加してきました。

そこでは、さまざまなユニークなやり方で、プロボノの仲介に取り組むいろいろな団体の話を聞くことができました。

例えば、サンフランシスコを拠点とするPublic ArchitectureというNPOは、建築家や工務店がNPOなどの事務所やミーティングスペースの改装工事などを手伝うプロボノを仲介する団体で、全米各地で建築分野におけるプロボノ活動が広がりを見せています。ニューヨークにあるDataKindは、データ解析を本業とする人たちによるプロボノに特化した団体です。NPOが処理しきれなくなった膨大なデータを整理したり統合したりして、対外的に発信できる情報、内部で活用できる情報へとまとめていくサポートをする団体です。その他、カソリックの団体が、行政やNPOの災害時等における危機管理対策の作成を支援するプロボノのグループなど、プロボノによって支援する対象や、支援の内容などには、さまざまなバリエーションがあることが分かりました。


もともと「公共善のために」を語源とするプロボノは、NPO法人だけを応援するための仕組みではありません。この番組をご覧の皆さんの中には、NPOが身近に感じられない、という人もいらっしゃるかと思いますが、もし、身近な町内会や、学校なども、プロボノによって応援することができるとしたら、どうでしょうか。

日本でも、さまざまな新しい可能性が模索されていますので、そのいくつかを、ご紹介しましょう。

急ピッチで行政改革が進む大阪市では、従来の補助金の仕組みを根本から見直すとともに、町内会などの地域自治組織に新しい仕組みを取り入れようとしています。これまでの町内会などの地域組織などを包括し、地域を代表する新しい枠組みとして「地域活動協議会」という組織を作り、市内のおよそ330の全地域で推進しています。地域の中には、この新しい仕組みの導入をきっかけに、若い世代や幅広い層の住民に地域活動に参加してほしい、あるいは、地域の中で町内会ではできなかったような新しい事業を、ソーシャルビジネス、コミュニティビジネスとして立ち上げていきたい、という意欲的な地域が出てきています。こうした地域コミュニティ活動に、プロボノとして地元・大阪の企業人たちが参加し、地域の活性化に知恵を絞る取り組みが始まっています。

最近では、小学校や高校など、学校からプロボノの相談を受けるようになっています。学校の先生たちは、子どもたちへの日頃の教務活動で忙しくされていますが、保護者とのコミュニケーションを円滑にしたり、地域社会との連携を深めていきたい、というニーズをお持ちです。こうしたところに、プロボノが何かお役に立てることはないか、私自身も、模索しているところです。

そのほか、伝統工芸を応援するプロボノプロジェクトの実験も始まっています。日本の伝統工芸を応援することに賛同する有志がプロボノで、伝統工芸の生産者に対して、新しい商品の開発や、売り方の提案をする取り組みです。あるいは、プロボノとして参加するような企業人が多くないと思われる地方の市町村に対して、大都市の企業人が応援する「ふるさとプロボノ」という取り組みも始まっています。さらに静岡、広島、福岡、佐賀などの地域には、プロボノのコーディネートができる団体が生まれており、それぞれの地域で、地域の人たちと地元のNPOをつなぐプロボノの取り組みが動きはじめています。


一人ひとりが、仕事を通じて培った経験やスキル、プロとして培ったスキルを発揮しながら、社会に関わり、課題解決につながる成果を生み出していく。プロボノは、非常に前向きで健全な、市民参加の新しいしくみではないでしょうか。

まだまだ、いろいろな試行錯誤がこれからもあるとは思いますが、プロボノによってできること、実績が積み上がっていくにつれて、プロボノが、社会課題解決の重要な手法として、この日本でも、着実に定着していくのではないかと考えています。

【出典】NHK「視点論点」