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「提案」から「実行」へ ~ プロボノが示す市民参加の深まり

 

2010年は「プロボノ元年」
 プロボノとは、ラテン語の「公共善のために(Pro Bono Publico)」に由来する言葉で、公共的な目的のために職業上のスキルや経験を生かした社会貢献活動を意味する。プロボノは、ボランティアの一形態だが、一般的なボランティアとプロボノとの違いは職業上のスキルを生かしているかどうか、という点にある。例えば、弁護士が地域の清掃活動に参加したら、それは一般的なボランティア活動であって、プロボノではない。一方、弁護士が社会的弱者に対して法律相談や法的手続きの代行を無償でサポートしたらそれはプロボノということになる。

 こうしたプロボノの考え方は、弁護士や経営コンサルタント、また、日本国内では外資系企業など一部の企業や職種独自のカルチャーとして存在しており、これまであまり一般的ではなかった。しかし、「プロボノ元年」と言われた2010年は、プロボノの社会的な認知度が急速に高まり、プロボノの考え方が特定の業界や職種に限られるものではないという理解が広まった。営業、企画、経営戦略、調査・マーケティング、広報・PRなど、幅広い業務に関わるビジネスパーソンが、自らの専門性や得意分野を生かすことで社会貢献できる機会が存在する。こうしたプロボノの考え方が、これまでにない社会貢献のスタイルとして注目を集めている。

 筆者が運営に関わるサービスグラントは、米国における先進的なプロボノの取り組みを参考にしながら、2005年に日本で活動を始めたプロボノプログラムだ。サービスグラントとは、お金による助成金(グラント)に代わり、専門的スキルによるサービスを提供することで、NPOを応援するしくみである。

 サービスグラントには、自らのスキルを提供し社会に役立てようとする社会人が集まる。こうした社会人の登録数は2010年12月現在600人を超え、毎月30~40人のペースで増え続けている。彼らの年代は20代後半から40代が中心で、まさに本業で忙しい毎日を送るビジネスパーソンばかりだ。サービスグラントでは、こうした社会人の力を生かして、NPOのウェブサイトやパンフレットの制作など広報・コミュニケーションの分野を中心にNPOを応援している。活動開始から5年間で、延べ49件のNPOを応援した。NPOからは「ウェブサイトのアクセス数が二倍に増えた」「視察や取材の問い合わせが数多く入るようになった」といった反応をはじめ、中には、「寄贈品が増えた」「会員数が一・五倍に増えた」「ある日突然、企業から寄付の申し出を受けた」といった実質的な成果が生まれているケースも見られる。スキルを持つ社会人が、人手も資金も不足がちなNPOを応援する。プロボノの効果は目に見えて現れ始めている。

神奈川県との協働事業
 こうした実績をもとに、2010年度からスタートした神奈川県とサービスグラントの協働プログラムが「かながわプロボノプロジェクト」だ。今年度は、神奈川県が前年度から支援してきた二団体のNPOを対象にプロボノによる支援プログラムを試験運用している。今期の支援先は、精神障害者の社会的自立のために横浜市内の商店街に自然食品店を運営する「精神障害者就労支援の会」と、高校生を対象にキャリア教育のプログラムを提供する「カタリバ」だ。
 かながわプロボノプロジェクトでは、2010年8月に横浜にある「かながわ県民活動サポートセンター」において参加を検討する人を対象に説明会を2回実施した。説明会には約30人が出席し、そのうち約半数が、プロジェクトへの参加を希望した。そうして集まったメンバーを二つのチームに振り分け、九月下旬にプロジェクトが始まった。目下、2011年2月を目標に、各チームそれぞれプロジェクトを鋭意進行中である。
 それにしても、読者諸氏の中には、たまたまこの場に集まった初対面の15人の市民が、チームを組んで、果たしてうまく行くのだろうか、という疑問を持たれるかもしれない。この「かながわプロボノプロジェクト」には、サービスグラントで培われたプロボノを成功させるためのエッセンスを取り入れながら、神奈川県独自の試みにも挑戦した。そこで、このプロジェクトの要点として、次の3点を挙げておきたい。

①具体的な成果目標を設定 ・・・ 第一に、プロボノプロジェクトを成功させるためには、目標が具体的で明確でなければならない。神奈川県のプロジェクトにおいても、支援先の二団体に対して提供する目標成果物の明確化に注力した。NPOの中には、日々の運営に多くの課題を抱えていながら、その課題をどのように解決したらよいかの方法論が不明確だったり、また課題の優先順位付けが十分にできていない場合も多い。そこで、プロボノプロジェクトを始める前に、事務局が各団体を事前に訪問し、それぞれの団体における課題やニーズをヒアリングし、プロボノプロジェクトとしての支援内容を明確化する作業を行った。こうした整理は、チームメンバーとNPOとの互いの期待をすり合わせ、プロジェクトの中途における双方の食い違いを回避するために有効である。具体的に、精神障害者就労支援の会については、同団体が運営する自然食品店への来店促進を目的とするパンフレットを、カタリバについては、主たるターゲットである高校教諭向けに同団体が提供するキャリア教育のプログラムの特徴や教育効果を説明するプレゼンテーション資料を成果目標として合意した。

②プロセスを全員で共有 ・・・ それぞれのプロジェクトは、目標とする成果物が異なるとはいえ、ほぼ同一のプロセスのもとに進めていくことができるよう、作業プロセスを明確化した。プロジェクトの最初のミーティングである「キックオフミーティング」の際に、チームメンバーとNPO双方に、プロジェクトの進め方を記した「進行ガイド」を配布し、進め方を説明した。個々のステップがどのような位置づけにあり、そのステップが終わった後には次にどのようなステップがあり、そのためにはチームメンバーおよびNPOは何をしなければならないか、ということを明確に共有した。このように、チームメンバーどうし、さらに、支援を受けるNPOも含めて、プロジェクトに関わる全員が進め方について理解を共有することで、プロジェクトが中途で混乱しないよう、リスクを最小限に抑えることを目指した。

③場所とスケジュールを確定 ・・・ 神奈川県のプロジェクトの特徴は、打ち合わせの場所およびスケジュールを初期の時点で確定し、メンバーが日程を確保し、集まりやすいようにした点である。また、神奈川県が運営する施設「かながわ県民活動サポートセンター」は横浜駅から徒歩数分の交通至便の場所にあり、十分なスペースの会議室もあるため、多くの人が集うにはうってつけの場所である。こうした施設のメリットを生かし、打ち合わせはすべてセンターで、また日程についても予め全七回すべてを確定させた。もちろん、回によっては、メンバー全員集まることができない場合もあるが、出席率も比較的高く、何よりも、チームメンバー内で日程調整をする労力が大幅に削減された点は大きい。

 こうしたベストプラクティスが挙げられる一方で、行政との協働事業という初の試みゆえの反省点もいくつか出てきた。その最大の点が、参加者の選定に関することだ。

 今年度のプロジェクトでは、幸い、意欲もスキルも高いメンバーによってプロジェクトが力強くけん引されている。だが、参加を希望する人についてはできる限り参加を受け入れるという姿勢で臨んだため、一部のチームメンバーについては、スキルや参加意識の面で温度差が見られる状況も発生した。こうした点は、直接間接、プロジェクトの進行や他のメンバーのモチベーション等にマイナスの影響を与えるものである。プロボノプロジェクトを成功させようと思えば、たとえ行政が参加を呼びかけるプログラムであっても、ボランティアとして参加しようとする市民の中からプロジェクトを成功させるために本当に必要な人だけを選抜して、そうでない人に対しては、場合によっては参加をお断りしなければならないこともあるのだ。ただ、現実問題、自ら応募してきたボランティアに対して参加をお断りする、というのは、実に心苦しいことだろう。だが、そのことに腹を括ることができるかどうか。この点は次年度以後の活動に引き継がれていく反省材料だ。

「提案」から「実行」へ
 そうはいっても、幸い、かながわプロボノプロジェクトに集まったメンバーの参加意識はおおむね高く、11月に行われた「中間提案」の内容は、質・量ともに非常に充実したレベルの高いものとなった。最終的な成果物に向けてまだ作業は残されているが、このまま順調に進めば、行政によるNPO支援施策のあり方として、新しい一ページを刻むことになるだろう。

 また、プロボノは、これまでの市民参加のあり方に、新しいスタイルを提案するものともいえる。「協働」という言葉が聞かれるようになって久しいが、「協働」の意味する内容には、市民が行政に対して意見や提案を行う、行政とNPO法人等が委託や指定管理などの契約などを締結し事業上の関係を築くなど、さまざまなバリエーションがある。プロボノの最大の特徴は、市民が「意見」や「提案」を出すだけではなく、具体的な成果物を提供し、支援先の基盤強化をサポートする「実行」の部分をも担っている、という点である。しかも、事業上の関係ではなくあくまでボランティアである。これまでの市民参加の場合、市民が意見や提案を出しても、実務を遂行するのは行政サイドということが一般的だった。これに対して、プロボノは、より踏み込んだ市民参加の形態といえるのではないだろうか。

 ところで、冒頭にも述べた通り、プロボノは「公共的な目的のために」行う活動である。このことは、プロボノが単に「NPO支援」だけに限られるものではないことを意味している。本来、プロボノの対象は、学校、病院、図書館等の公共施設、また、社会起業家や地場産業、さらには、行政が行う事業そのものに対するプロボノということも、言葉の定義上は成立し得る。
 公共セクターのなかには、資金や人材等の資源制約などから、マネジメントやマーケティングなどに課題を抱え、潜在的にはより高い成果を生む可能性があるにも関わらず、十分な成果を発揮できていない事業も多々あるだろう。ビジネスマインドをもった社会人が、プロボノとして公共領域の諸課題に前向きな形で関わるとき、公共領域にはきっとさまざまなイノベーションが起きるに違いない。プロボノがもつ潜在的な可能性や広がりは、これからさまざまな形で、さまざまな対象に向けて、数々の実践を通じて模索されていくべきことだろう。

【出典】「地方自治職員研修」2011年1月号