オフィス・アップサイジング

home  writing's index  プロボノ
記事・論文

NPOこれからの十年における「プロボノ」の意義と活用法

 

これまで、一般的に、働き盛りのビジネスパーソンは、ボランティア活動になかなか参加しないと言われてきた。平日は夜遅くまで働き、土日は子育てに忙しい働き盛り世代は、ボランティアに参加する時間など持ち合わせておらず、なかなか興味があってもボランティアに参加できる余裕などないと思われていた。

 ところが、実際、プロボノの参加者の大半は、社会人五年目から二十年目付近を中心とする、まさに働き盛りの世代だ。そんなビジネスパーソンたちが、仕事の疲れを感じさせない様子で平日夜や土日の時間を使って、NPOを応援するために集まり、議論し、資料をつくる。それが、プロボノでは当たり前のように見られる光景である。

プロボノ注目の背景とNPOの機会
 ビジネスの経験やクリエイティブなスキルを活かしたボランティア「プロボノ」への関心が高まりを見せている。プロボノは「Pro Bono Publico(公共善のために)」というラテン語に由来する言葉で、「社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルを活かすボランティア活動」を意味する。プロボノは、ボランティアの一形態だ。数多あるボランティア活動の中で、本人がプロフェッショナルとして仕事でつかっているビジネススキルによって、ボランティア活動に取り組むことを意味する。

 2010年は「プロボノ元年」と言われ、新聞・テレビ等でもプロボノをテーマとした報道が相次いだ。このようにプロボノが注目されることと、日本のNPOセクターの発展とは、密接にリンクしている。

 ボランティア元年と言われた1995年、そして、その3年後の1998年のNPO法成立以来、市民活動団体が一個の責任ある事業主体として公的な法人格を獲得するようになってから十年余。日本社会においても、NPOの存在は以前と比較にならないほど定着してきた。さらに、最近では、「社会起業家」と言われる、社会的課題をビジネスの手法によって解決しようと取り組むNPOや企業等にも注目が集まるようになってきた。特に注目される社会起業家の中には、20代、30代の若手も多く、同世代のビジネスパーソンからも、NPOが無償の奉仕によって成り立つ慈善団体というステレオタイプでなく、非営利という原理に立脚しながらも事業を動かしていくビジネス組織であるという認識も高まってきた。企業で活躍していたビジネスパーソンが、NPOに転身し、新しい非営利活動を立ち上げるケースなども出てきた。「ソーシャル」という言葉も、いつしか当たり前のように使われるようになり、多くの人が「ソーシャルなこと」「社会的なこと」に関心を持つようになった。これまでになく、ビジネスとソーシャルとの垣根、企業とNPOとの垣根は下がってきているようだ。

 こうした社会的機運を、NPOはどのように生かすべきだろうか。
 NPO法成立以来の十年余の歴史の中で、いま、NPOの課題となっていることは、ひと言でいえば、事業基盤の強化であろう。事業基盤の強化とは、資金、人材、事業内容など、全般にわたって足腰を鍛えることを意味する。例えば、NPOの課題の一つが、自主財源の確保である。委託や補助ではなく、寄付や会費、自主事業などを強化していくことは、NPOの基盤づくりには不可欠だ。リーダー頼みの運営も課題だ。長年にわたって、主要なリーダーが中心となってNPOの活動を引っ張ってきたが、リーダーも10年たてば年をとるし、マンネリになることもある。そろそろ次世代や幅広いメンバーへの継承を真剣に考え始めなければならない時期が来ているかもしれない。こうした課題を解決するためには、中期的な事業計画を構築したり、情報発信の基盤を整えたり、理事やスタッフなど人事面での補強も必要かもしれない。必然的に、10年余を経たNPOセクターは、“市民活動団体”のもつ気軽さ、親しみやすさを活かしつつも、少しずつ、事業基盤を固め、プロフェッショナルな組織へとバージョンアップしていかなければならない時期にさしかかっている。こうした部分に、プロボノは、貴重な力を提供してくれるはずだ。

成果を生み出すシステム
 ところで、プロボノ元年と言いながらも、プロボノのような取り組みは、何も二〇一〇年に初めて生まれたというわけではない。というのも、プロボノのような動きは、もとから、ごく普通に存在していたのだと思う。近所の人がたまたまプロの写真家で、町内会のイベントで写真撮影を無償で手伝ってもらった、あるいは、とある作曲家が町のためにオリジナルソングを書いてくれた、というような話はあり得ることだ。こうした例は決して珍しくはないだろう。ただ、こうしたプロボノは、個人の人脈に依存することが多い。人脈をすでに持っている人はアクセスできるが、そうでない人にはなかなか手に入れるのが難しいものだ。

 ところで、NPOの運営に関わる人の中には、ボランティアとの関係で苦労した経験を一度や二度味わっている人もいるのではないか。筆者の経験の中でも、一時期まで献身的に活躍していたデザイナーが、急にフェイドアウトしてしまったり、経営コンサルタントという人物が、企業の尺度を持ち込んで、NPOの実情に見合っていない“アドバイス”を提供してきたり、ボランティアとNPO実務との間のミスマッチをいくつか経験してきた。

 もっとも、ボランティアに確実性を求めることは、NPOのエゴかもしれない。それでも、NPOとて事業体であり、社会の中で成果を挙げていくことが求められている。であれば、ボランティアもまた成果を生み出すことに貢献してほしいと考えるのは、NPOにとっては自然な話だ。現在注目されているプロボノは、こうしたNPOのニーズにもこたえるものである。つまり、既存の人間関係の有無によらず、しかも、目標とする成果を生み出す確率を高い水準で実現する、まさしく「成果を生み出すためのシステム」としてのプロボノが確立されつつあるのである。

プロボノを成功させる条件
 「成果を生み出すためのシステム」としてのプロボノには、どのような特徴があるだろうか。紙幅も限られる中ではあるが、簡単にそのエッセンスを紹介しよう。
 筆者が運営するプロボノの活動「サービスグラント」では、2005年の活動開始以来、700人を超えるプロボノワーカー(プロボノとして参加するビジネスパーソンやクリエイター)を集め、ウェブサイトやパンフレットなど情報発信・マーケティング分野を中心に、延べ54件のNPOに成果物提供を実現してきた。こうした数多くの成果物を生み出すことができた背景は、もちろん一人ひとりの志あるビジネスパーソンたちの存在なくしては語れないが、それに加えて、サービスグラント独自のマネジメント手法が存在する。それは、具体的には、「目標とする成果物を明確にする」「プロジェクトはチームで取り組む」「一人ひとり具体的な役割を担う」「つかう時間は週5時間」「参加する期間は6カ月間」といったルールの存在である。

 サービスグラントでは、NPOに対して提供する成果物を最初の時点で合意してからプロジェクトに着手する。ボランティアの場面では、しばしば、議論をしていくうちに目標がブレてしまうようなことも起こりかねないが、そのような時間と労力のロスを発生させないよう、プロジェクトをスタートさせる時点でNPOとプロボノワーカーとの間で目標を明確に合意するようにしている。一つのプロジェクトは、参加するプロボノワーカーのそれぞれの得意分野を生かしてもらうため、4~6人の異なるスキルを持ったプロボノワーカーによって構成される。
 そして、一人ひとりのプロボノワーカーには、「プロジェクトマネジャー」「マーケッター」「ウェブデザイナー」など、それぞれの職業と関連性の強い役割が割り振られている。さらに、一人のプロボノワーカーが活動に割く時間は週5時間程度という目安を示している。これは、週5時間どこかに集まって打ち合わせをする、ということではなく、メールチェックや資料作成などを含めたゆるやかな目安として提示するものであり、個人差はある。だが、こうした時間の目安を示すことによって、本業の仕事との両立が可能であることをプロボノワーカー側に具体的にイメージを持ってもらうようにしている。
 さらに、プロジェクトが完了するまでの期間はおよそ6カ月間であり、一つのプロジェクトが終了すれば、一旦、プロボノとしての関わりは終了する。この「終わりが見えている」ということは、ボランティアとして参加する個人にとっては、きわめて重要な要素である。NPOの側からすれば、いつまでもボランティアを続けてほしいと思うかもしれないが、ボランティアとして参加する側からすれば、一度関わったらエンドレスで関係が続いていくのではないか、というのは、むしろやや恐怖にもなりかねない。いささかドライに聞こえるかもしれないが、終わりがあるということを先に明確に伝えておくことが、ボランティアの心理的な負担を大幅に軽減することにつながるのだと思う。
 このように、プロボノによるNPO支援を成功させるためには、プロボノワーカーが活躍しやすいような体制を整えていくことがポイントだ。そして、こうしたエッセンスは、プロボノに限らず、ボランティア全般のマネジメントにも、適応可能な要素があるだろう。

 最後に、繰り返しになるが、ビジネスとソーシャルの垣根、企業とNPOとの垣根は、少しずつ下がってきている。そのことは、NPOに関心を持つビジネスパーソンが増えてきたということを意味すると同時に、NPOもまたある種のビジネス組織であるということにより自覚的にならなければならないことも意味している。また、NPO法から十年余を経たいま、NPOの基盤強化の重要性はますます高まっている。今後のNPO運営において、プロボノとどのようないい関係を築いていくか、プロボノをどうNPO活動の発展に生かしていくか、は、NPOの運営をバージョンアップするカギを握るかもしれない。

【出典】アリスセンター『たあとる』2011年3月号