オフィス・アップサイジング

home  writing's index  プロボノ
記事・論文

企業の社会貢献活動に イノベーションを

 

 CSRという言葉が浸透して久しい。いまや社会貢献活動にまったく取り組んでいない企業は少数派になってきた。このことは素直に歓迎すべき流れだ。だが、ここから先、どのような方向に進むかは大いに議論の余地が残されている。折からの経済情勢の影響もあり、企業によっては、中途半端な社会貢献活動なら、いっそやめてしまった方がよいのでは、という後ろ向きな声すら聞こえる。企業の社会貢献活動は、岐路に立たされている。

品揃えの少ない退屈な店
 企業の社会貢献を、ファッションのたとえを用いて考えてみてはどうか。
 プレタポルテからファストファッションまで、ファッションには幅広い選択肢が用意されている。同じデザイナーのブランドでも、ラインが分かれており、ラインごとにコンセプトやテイストは異なっている。消費者は、リラックスしたいとき、ドレスアップしたいときなど、時と場合に応じてファッションを使い分けてもいる。

 これに対して、企業が行う社会貢献活動はというと、まるで品揃えの少ない退屈な店のようだ。企業によって取り組む活動内容は少しずつ異なるものの、多くの企業が、社会貢献活動と言えば、清掃、植林、イベント手伝い、袋詰めや切手整理といった、いわゆる単純作業に近いボランティア活動の枠の中に収まっている。日ごろバリバリ働くビジネスパーソンでも、社会貢献になると、急におとなしくみんなと同じ振る舞い方をしてしまう。だが、それでいいのだろうか。

社会貢献の新ライン
 そろそろ、企業で働く一人ひとりのライフスタイルに合わせた社会貢献活動の新しい「ライン」が登場すべきときだ。そのキーワードが「プロボノ」である。
 プロボノとは、ラテン語のPro Bono Publico(公共善のために)を略した言葉で、特に仕事を通じて培ったスキルや専門知識を生かして社会貢献することを意味する。プロボノもボランティアの一種だが、一般のボランティアと異なる大きな特徴は「仕事のスキルを生かす」という点である。

 米国では、ここ数年プロボノへの注目が集まっている。米国でも以前は、プロボノといえば弁護士などの一部の職種に限られていたが、近年は、経営戦略、IT、マーケティング、デザイン、建築など、幅広い分野の職種の人たちがプロボノに関心を持ち始めている。
 分かりやすい事例の一つが米国の大手流通ターゲット社の例だ。ターゲットでは、プロボノを社会貢献活動の一部に位置づけ、ユニークな取り組みを行っている。ある地域の図書館建設の支援に当たって、ターゲットでは、建設資金を寄付する金銭的支援、社員がペンキ塗りや棚の設営などを手伝うボランティアによる支援に加え、同社が培った店舗設計・開発ノウハウを生かして設計や内装デザインなどをプロボノで提供し、地域図書館建設をまるごと支援した。

業界のセンスを生かせ
 こうした支援は、単に寄付だけやボランティアだけという部分的なサポートではなく、具体的な成果がより目に見える点で、社会貢献活動としての効果も大きい。ただ、それだけでなく、同社の従業員にとっても、単純作業もあれば専門スキルを生かした関わり方もでき、本人の適性に合ったボランティアの機会を選択できる点は魅力だろう。
 まさに、ファッションのラインの考え方よろしく、企業の社会貢献活動も、個々人のライフスタイルに合わせて参加できるような発想が求められているのだ。

 CSRが浸透してきた中で、社会貢献をいまさらやらないという後ろ向きな選択肢は、これからの企業にはあり得ない。もしやるべき活動なら、そこに投入する労力を最大限効果的に活用するという考え方のほうが前向きだ。
 だとすれば、月並みなボランティアでお茶を濁すか、社員が、個性を生かして自分らしく社会とかかわる場を企業が提供するか。答えはおのずと明らかではないだろうか。ファッション業界ならではの、センスを感じさせる社会貢献活動が現れることを期待したい。

【出典】繊研新聞