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記事・論文

第1回 人とお金でNPOを支援する「マッチングギフト」の新潮流

 

はじめに~この連載のねらい
 企業の社会的責任(CSR)への関心が高まる中、NPOとの連携・協働を模索する企業も増えてきた。NPOは、行政や企業が解決できない社会の諸課題に光を当て、専門的な知見や人的なネットワーク、ボランタリーな力を発揮してこうした課題解決の糸口を提供する主体として、今後の可能性が大いに期待されるセクターである。

NPOの活動は公共性が高い内容が多く、その点で行政機関との親和性が高いことから、行政とNPOとが連携する機会はかなり広まってきたように思われる。一方で、株主の利益が第一優先となる株式会社の場合、広く公共的な課題解決につながるNPOと連携するモチベーションは、行政よりは高くないのかもしれない。

しかしながら、NPOのもう一つの性格として、NPOは行政機関と違って民間の事業主体であるという点では、一般の企業と同じ土俵に立っている。唯一、株式会社とNPOとが違うことは、資産の再分配を行うかどうかという点だけであり、NPOは利益を上げることも、仮にその職員が一億円の給料を稼ぐことも“理論上は”なんら問題ない。また、このことは、企業にとって、NPOを単なる支援の対象と捉えるのではなく、事業パートナーとみる見方も可能であることを意味する。(もちろん、そのためにはNPO側にも企業が求める十分な事業遂行のための能力が備わっていなければならないのだが。)

 NPOに関する知識は、人によって大きく落差がある。知っている人は、上記のようなことは当然中の当然に聞こえるだろう。だが、いまでも時々、筆者と会話をする人の中には、「NPOってボランティアなんですか」あるいは「NPOって儲けていいんですか」といった、ごく初歩的な質問をしてくる人もたくさんいる。それぐらい、まだNPOは、多くの人がリアリティをもって感じられるような身近なところまで発展していないのだ。また、NPOについて新聞・雑誌等で情報を仕入れている人も、その活動の実態や現場に実際に触れたことがある人は、予想以上に少数派だろう。

 今後CSRがISO26000により国際標準規格化される中で、社会貢献やNPOとの連携を通じた「コミュニティ参加」は、企業にとってもはや周辺的な課題ではなくなってくる。そうした中で、企業にとってのメリットもあるようなかたちで、しかも、NPOとの間でいい関係を築くにはどうしたらいいか。
この連載では、企業とNPOとのつながり方のヒントになるような素材を提供していきたい。

NPOを人とお金で支援する仕組み
 さる二月三日の日経新聞(夕刊)に、ソニー・リコー・味の素・積水化学など大手企業約十社が新しい社会貢献の仕組みを検討しているという記事が掲載された。その記事によれば、これら企業の従業員が「地域の清掃活動に参加した」「ゴミのリサイクル事業に協力した」などを企業に申告すると、その従業員の行動をポイントとして換算し、そのポイント数に応じて、それらの活動を行っている地域活動団体やNPO団体等に寄付をするという仕組みだそうだ。

 従業員がボランティアをし、企業は寄付をする。NPOを人とお金の両面で支援する仕組みが、いよいよ本格的に動き出そうとしているようだ。
こうした仕組みは海外では一般に「マッチングギフト」と呼ばれている。マッチングギフトとは、寄付やボランティアなど従業員が行った社会貢献活動にあわせて企業も一緒に支援するという意味である。日本では寄付金に対して企業も同額の寄付金を出すというマッチングギフトの仕組みは以前からも聞かれたが、ボランティアの時間に対して企業が寄付をするという仕組みはまだ始まったばかりだ。

マッチングギフトの仕組みとメリット
まだ耳慣れないマッチングギフトの仕組みだが、海外ではすでに先行した取り組みが多数存在する。筆者の少ない経験の中でも、いまから三年近く前、筆者は米国サンノゼにあるシスコシステムズ本社を訪問し、同社の社会貢献活動の様子をヒアリングしたときのことを思い出す。

 そこで見せてもらったのは、従業員の社会貢献活動を一元管理するシステムだった。イントラネットからアクセスできるそのシステムは、例えば本社事務所に勤める従業員なら、サンノゼの周辺にあるNPOのリストを一覧できるようになっている。この一覧に表示されるNPOは社会貢献の担当セクションが内容をチェックした団体で、いわば、社員に向けてオススメの団体ということになっている。

 従業員はその情報をもとにボランティアとして参加するが、興味深いのはその後だ。ボランティア活動後、従業員は活動した時間を自社のイントラネットに入力できるようになっている。

 言うまでもなく、シスコは世界各地に支社がある多国籍企業だが、全世界の事業所がこのシステムを使うことで従業員のボランティア活動の状況を把握できるようになっている。社会貢献のセクションは本社の十数人だけ。それで全世界の情報を集約するためにはこうしたシステムの力が不可欠だという。
担当者の話によれば「以前は、当社はさまざまな分野でたくさんボランティアをやってきました、というような報告の仕方をしてきましたが、いまはこのシステムを使うことで、例えばどの国でどんな活動に何人の従業員が何時間ボランティアをしました、というように具体的なデータを言えるようになったことで、ステークホルダーの印象をぐっと上げることができるようになりました」ということだった。

 そこで登場するのがマッチングギフトだ。シスコでは、従業員のボランティア時間に対応する寄付金をマッチングして、従業員が活動したNPOに寄付をしている。そのレートは、一時間に対して十七ドル。例えば、ある従業員が、Aという団体で五時間のボランティアをすれば、会社は、団体Aに対して八五ドルを寄付するという仕組みになっているのだ。(従業員一人当たりの上限は年間千ドルとのこと。)

 この「マッチングギフト」の仕組みは、単にNPOにとってメリットがあるだけではない。従業員にとっても、自らがボランティアをすればするほど会社がNPOに寄付するため、ボランティアに参加するモチベーションにつながるという効果がある。さらに、企業にとっては、マッチングギフトの仕組みを導入することが、従業員のボランティア参加促進になることに加え、ボランティアした実績を申告するモチベーションになると考えており、社会貢献の実績を集計する上で効果を発揮している。

 世界的な活動をする大規模な基金やNPOに寄付をすることも大事なことだが、従業員が身近な地域でボランティアとして参加し、顔の見える団体に対して資金的な支援をするプログラムは、企業とその従業員による「コミュニティ参加」を図る上で有効である。

ちよだボランティアチケットの実績
 人とお金の両面でNPOを支援するマッチングギフトの仕組みは、日本でも既に実践例が生まれている。

その先駆けが、二〇〇五年四月からスタートした「ちよだボランティアチケット」である。

 東京の中枢部に位置する千代田区は、そこで暮らす住民が四万人弱に対して企業従業員や学生などのいわゆる「昼間人口」は八〇万人を超えている。ちよだボランティアチケットは、こうした昼間人口を対象に千代田区内におけるボランティア活動への参加を促進し、同時に、区内のNPO・ボランティア団体の活性化を目的として導入された仕組みである。

 ちよだボランティアチケットの仕組みを簡単に説明しよう。

まず、企業の従業員は「ちよだボランティアセンター」(千代田社会福祉協議会内)に登録したNPO・ボランティア団体においてボランティア活動に参加する。このとき、一時間につき一枚のチケットがNPOから従業員へと配布される。従業員はボランティアチケットを自社に持ち帰り担当部署に提出すると、企業はチケット一枚(つまりボランティア一時間分)につき千円をマッチングして「ちよだボランティアセンター」に寄付するという仕組みである。

 現在、ジブラルタ生命・新生銀行・丸紅・住友生命などをはじめとする九社が参加しており、年間一〇〇〇時間のボランティア参加を実現している。また、この時間数に対応して寄付金がマッチングされるため、一〇〇万円近い寄付金が「ちよだボランティアセンター」を通じて区内のNPO・ボランティア団体に配布されており、資金的なサポートにもつながっている。千代田区では、区民の数が限られている中で区内企業のボランティア参加が望まれていたが、このボランティアチケットを機会として企業による地域参加の機会が徐々に生まれつつある。

 寄付とボランティアを両輪で回していく。企業が地域のNPOとの間で顔の見える関係を築くこうした仕組みは、参加する企業が増えれば増えるほど活性化していくものである。ひとまず連載第一回のメッセージとしては、もし読者諸氏の事業所が千代田区にあるならば、ちよだボランティアチケットについて情報収集してみてはどうだろうか。