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第4回 いますぐ無理なく始められる「地域通貨」の活用法

 

 
 前回の連載では「サービスグラント」の事例を通じて、企業とNPOが連携・協働するためのエッセンスを紹介した。そこには、企業の信頼を得ること、効率的にNPO支援を行うことなど、さまざまな仕掛けがあることに触れた。今回は、身近な地域において、企業がコミュニティ参加を実践し、NPOと連携するツールとして「地域通貨」の活用について紹介しよう。

地域通貨と企業メリット
 地域通貨とは、特定の地域やコミュニティのなかで、ボランティアや地域貢献、環境への貢献などを、擬似的な「通貨」という目に見える形に表すことによって、それら社会的な「善」につながる行動を促進することを目的とした仕組みである。地域通貨は世界各地で広がりを見せており、日本国内でも一時期のブームは沈静化した感があるものの、いまでも全国に100以上の地域通貨が「流通」している。

 地域通貨の中には、住民間の親睦や助け合いなど、住民どうしのつながりを深めることを目的とし、参加者を個人に限ったものもある。こうした地域通貨では、パソコンを教えたり、物品の貸し借りをしたり、車の送り迎えをしたりといった日常生活における気軽な助け合いの行動のなかで地域通貨をやり取りすることを通じて、住民どうしがお互いに支えあうような仕組みを提供している。

 最近では、そうした個人間のやり取りだけにとどまらず、地域の商店や飲食店などが地域通貨に参加する事例も一般的になってきた。街のごみ拾い、川の清掃、植林、雪かきなど、地域貢献活動の内容はそれぞれの地域性に応じてさまざまであるが、そうした活動に参加することによって得た地域通貨によって、街のお店で割引や特典が受けられる。地域通貨に参加するお店は、自らボランティアに参加しなくても、ボランティアに参加した人が手にした地域通貨を受け入れることによって、地域やコミュニティの活動を応援することができるというものだ。

 こうした地域通貨に参加することのメリットの一つは、事業者が、日常的な営業活動を通じて、無理のないかたちで地域やコミュニティの活動に協力できるという点、つまり、参加の労力がきわめて小さいということだ。その上で、地域通貨に参加しているということによって、その店が地域に貢献する店であるというイメージを発信することができるならば、その店にとってはプラスである。さらに、より実利的な視点からは、地域通貨を受け入れることによって、多少なりとも集客につながる可能性があることも指摘できる。地域通貨の参加者が、ボランティア活動で街に来た帰りにちょっと一杯コーヒーを飲みに立ち寄る、ちょっと買い物をする、その際の店選びに、地域通貨が使えるかどうかがカギになることがある。お店にとっても、駅前で大量にバラ撒かれている割引クーポンと違って、地域通貨は会話のキッカケにできる。「その地域通貨、どこでゲットしてきたんですか?」「いま、そうじをしてきてもらいました。おそうじ、けっこう楽しかったですよ~」そんな会話が生まれるのも、地域通貨ならではのことだ。


大企業も仲間入り
 地域通貨に参加する商店や飲食店の多くは、個人経営や中小の事業者であるケースが大半である。

 一般的に、全国各地に支店を展開する企業は、地域通貨との相性がいいかというと、そうではないかもしれない。なぜなら、地域通貨は全国一律のシステムではなく、地域ごとに単位も運営ルールも運営主体も異なっている。個店ごとに異なる地域通貨に参加するという判断をするのはなかなか難しいに違いない。

 筆者の経験から言っても飲食チェーンの支店などに地域通貨への参加を呼びかけても、店長からは「本部に聞いてみないとわからない」と言われ、本部に連絡をしてみると「一部の店舗だけでそうした仕組みを導入するのは難しい」と剣もホロロな返事が返ってくることがしばしばだ。

 だが、最近では、支店をいくつも持つような比較的規模の大きい企業が地域通貨に参加するようなケースも見られるようになってきた。

 筆者が運営に関わっている渋谷の「アースデイマネー」には、スポーツクラブの「ティップネス渋谷店」や「タワーレコード渋谷店」などが参加している。それぞれの店ごとにアースデイマネーの利用ルールが設定されており、ティップネス渋谷店では500r(アール。アースデイマネーの単位)で施設利用体験ができ、タワーレコード渋谷店では300rで同社のオリジナルタオルを手に入れることができる。

 アースデイマネーは、渋谷などで行われるごみ拾いや花植え、壁の落書き消し、天ぷら油の回収など、20種類以上のボランティア活動のいずれかに参加すると、参加者は1回につき100~500rを手に入れることができる。手に入れたアースデイマネーは、カフェや雑貨店、美容室などの参加店で利用できる。現在、上記のティップネスやタワーレコードなどを含めて60店が参加している。


POSレジに「地域通貨」キー
 店舗における対応で、さらに一歩進んだ事例を紹介しよう。

渋谷の交差点の目の前にあるQフロント6階にあるWIRED CAFE QFRONT店。ここでアースデイマネーを使うと、レシートにアースデイマネーを利用したことが明記されて印刷されているのに気付く。WIRED CAFEを運営するカフェ・カンパニーではPOSレジに「アースデイマネー」というキーを設定し、アースデイマネーを利用した際はこのキーを押して代金の一部をアースデイマネーで受け取るようにしている。カフェ・カンパニーは都心部を中心に現在20店舗を超えるカフェを運営しているが、アースデイマネーに参加しているのはそのうち4店舗。これら店舗ではPOSレジにアースデイマネーのキーが設定されており、本部で利用状況を把握できるようになっている。

 カフェ・カンパニーのPOSレジがこのような対応をするようになったのはもう数年前のこと。カフェ・カンパニーは、アースデイマネーの設立当初から参加店として参加するなど、アースデイマネーの運営にさまざまな形で協力し、サポートしてくれた会社だ。

 カフェ・カンパニーの事例は、カフェを通じたコミュニティ創造という同社のユニークな理念に裏打ちされたものだが、同時に、多店舗展開する他の企業にとっては、地域通貨というローカルなシステムに参加することが決して無理なことではないことを実証する事例ともいえる。ぜひ参考にしていただきたい。

 しばしば、環境問題への取り組みは「Think Global, Act Local」(世界規模で考え、身近な地域から行動せよ)といわれるが、地域通貨に参加することはそうしたスローガンを形にし、企業としての「コミュニティ参加」を実践する手法としてきわめて現実的な選択肢であろう。

 そこで第4回を締め括る読者へのメッセージ。今回は、特に支店を統括する本社部門の人たちに向けて。地域通貨のことを知り、POSレジに「地域通貨」というキーを設置してみよう。そして、支店に対して地域通貨の状況を調査し、地域通貨への参加を奨励するよう働きかけてみてはどうだろうか。