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記事・論文

第6回 「つながり」の再構築とCSRを両立すること

 

 これまでの連載を通じて、企業が「コミュニティ参加」する方法論について具体例を交えながら紹介してきたが、締めくくりとして、もう一度原点に立ち返って、なぜいま「コミュニティ参加」なのかについて考えてみたい。

職場環境の変容
 先般発表された平成19年度の国民生活白書は「つながり」をキーワードに、家庭、職場、地域などのさまざまな場面で、人間関係が希薄化していることに対する課題認識や、現在の日本国民が物質的な欲求よりも精神的な満足を求めるニーズが高まる傾向にあること、また、そうしたなかで「つながり」を再構築するための方策などについて考察を展開している。白書では、社会の「つながり」が弱まることによって「精神的なやすらぎや充実感を得られなくなれば、人々は決して生活の豊かさを実感できない」と述べ、「つながり」の重要性を強調している。

 この「つながり」という観点からいえば、かつての職場はいま以上に強固に人びとが結ばれており、「コミュニティ」としての性質が強かっただろう。終身雇用を前提とした人事システムは、「即戦力」であることよりも、長年の経験や社内の人脈、社風などを重んじる仕組みであり、企業は従業員との関係を長期的な視点で築くことをよしとしてきた。好むと好まざるとに関わらず、社員旅行や運動会などが催され、時には家族ぐるみで会社はさまざまな人付き合いの場を提供し、従業員も会社との付き合いを通じて「つながり」を構築していった。

 しかし、バブルとその崩壊、IT、グローバリゼーション、とこの20年ほどで日本社会は大きく変化し、いわば「個」と「世界」とが剥き出しのままで相対する時代となった。かつてのように会社は個人を守る存在ではなくなり、個人もまた会社を終の棲み家とするという人生設計をしなくなった。

 単に仕事をするだけの場所でなく、人との「つながり」を醸成する機能を持っていたかつての職場は、しだいに、より仕事に特化した、スリムでシンプルな場へと移行しつつある。筋肉質の企業体質をつくり、競争に打ち勝つためには、こうした合理化は当然といえるし、昨今の法令遵守や内部統制などといった時代的な要請からしても、会社と個人の付き合い方は、もっとドライなものとなって然るべきかもしれない。

 しかしながら、最近、企業によっては、若い世代を中心に社員旅行や社内行事などという、一時期以来やや廃れた感のある取り組みを積極的に行う動きが散見されるなど、個が前面に立ちすぎる会社のあり方を、少しでも緩和させようとするニーズ、そして、働く仲間どうしで「つながり」を再構築したいと願うニーズは高まる傾向にあるともいえそうだ。


つながりの再構築とCSRを両立
 個人が社会的に健康に暮らしていく上で、「仕事」(職場)と「私事」(家庭)は基礎を成している。だが、それに加えて、多様な人との「つながり」を持つことは、国民生活白書の言葉を借りれば「精神的なやすらぎや充実感」「生活の豊かさ」を感じるために不可欠な要素である。

 だからといって、数十年前の会社のように、終身雇用を前提とした、会社と個人とのかなり濃密な付き合いを、自分を含めたこれからの若い世代が望むとも思えない。これから求められるのは、会社の中での親睦活動もその一つに含めながら、「コミュニティ」の場、人と人とがつながる場を、意識的・意図的に創出していく試みではないだろうか。
企業がコミュニティ参加することは、何もCSRという大上段に構えたお題目のためだけではない。従業員が社会的に健康な人間として生きていくために必要な人とつながりをつくる場を提供することは、企業にとって最重要な資源である「人材」を活性化することにほかならない。人には「つながり」が必要だ。そのことをすべて会社のお抱えでやるのが以前のスタイルなら、いまは、行政機関、NPO、地域活動、他の企業など、さまざまな外部の主体と連携・協働することが、いま風のスタイルである。

 こうした中で、単なる趣味の活動や社員旅行以上に、従業員が参加するボランティア活動や地域貢献活動は、従業員が普段出会わない新しい人との「つながり」を築くきっかけになるのと同時に、企業としてCSRの推進を同時に果たすことができる、一石二鳥の効果が得られる、きわめて戦略的な領域として位置づけられるべきである。

 だからこそ「コミュニティ参加」なのである。
 コミュニティ参加は、体質を強化した日本企業とその従業員たちが、今後も健康でいられるために必要なエクササイズであり、考え方によっては、CSRと福利厚生や研修などとを兼ね合わせた新しいマネジメントの手法だと考えることは、きわめて生産的な発想ではないだろうか。



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