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地域通貨の現状と今後の展望―社会政策における地域通貨の可能性と“コミュニティ銀行”の提案

 

急速に広がる地域通貨
いまから五年前、地域通貨という言葉を知っている人がどれほどいただろうか。おそらく、ごく一部の人に限られていただろう。それが、ここ数年の間に、新聞・テレビ等で毎日のように取り上げられるようになり、気づけば日本全国には三〇〇を超す地域通貨が立ち上がるまでになった。いったい誰がここまで地域通貨が広がると予測しただろうか。かつてを知る人からは「隔世の感あり」との声も聞こえてくるほどだ。

地域通貨は、確かに生命力を持ってこの国の至る所に広まろうとしている。なぜ地域通貨が生命力を持つのか。それは、ほかならぬいまの日本が置かれた時代の要請に、地域通貨が何らかのソリューションを提供する可能性を秘めているからに他ならない。
なぜ、いま、地域通貨なのか。

このきわめて素朴な問いに答えるべく、以下の論考では、地域通貨の基礎的な考え方を踏まえつつ、その社会的意義や可能性、そして、地域金融機関の関わり方について論じることとしたい。


地域通貨とは何か ~定義と特徴
地域通貨とは、ひとことで言えば「特定の地域やコミュニティで流通する価値の媒体」のことである。日本国内のどこでも利用でき、何でも購入でき、誰でも利用できるという日本円と異なり、地域通貨は、ある限られた範囲や特定の個人、商店などでしか利用できない。利便性だけを取り上げれば、きわめて不便で使い勝手の悪い代物と言えるかもしれない。

しかし、地域通貨にできて日本円にはできないことがいくつかある。ひとつは、日本円はきわめて汎用性、流動性が高いため、地域の中に滞留せず経済の強い方向(大都市)へと引き寄せられる傾向にある。しかしながら、地域通貨はある一定の範囲内を循環し続け、域外に流出することがない。これは、日本円にはできないことである。もうひとつ、ボランティアや福祉、環境や社会貢献など、日本円で表現することが困難なサービスやモノの価値を表現できることも地域通貨の特長である。地域には人材や知恵、自然環境などたくさんの資源があるが、これらの中には「遊休」の状態にあったり、活躍の機会が十分にない場合もある。こうした地域資源を掘り起こし、地域の中で融通しあうことによって地域の自立と活性化につなげることが考えられる。


地域通貨はどんな形をしているか? ~形式別分類
それでは、地域通貨は具体的にどのような姿かたちをしているのだろうか。

(一)紙幣・硬貨方式
もっとも分かりやすい形として挙げられるのが、額面が記載された紙幣を利用する方式である。写真に示すように、地域通貨の紙幣は大きさがまちまちであり、大きいものは日本円と同じぐらいのものもあれば、名刺サイズのもの、鉄道のきっぷのようなものもある。陶器やゾウゲヤシなどの一風変わった素材を利用した硬貨などもある。
地域通貨によっては、紙幣の裏面に記入欄があり、誰から誰に、どのようなときに通貨を支払ったかを裏書きして記録できるものもある。

(二)通帳方式
通帳方式とは、金融機関の預金通帳、あるいは、金銭出納帳のような帳簿を各参加者が保有し、支出、収入及び残高をそれぞれの通帳で管理する方式である。一般的に、通帳は手書きで記入し、残高の計算も各自が行う。お互いが交換したことを証明するために署名を交わすこともある。実にローテクな手法と言ってしまえばそれまでであるが、ボランティアや隣近所の手伝いなどの場面では、通帳に記入するという行為自体が和やかなコミュニケーションの一環ともなる。
通帳方式は、残高の計算ミスや不正使用を防止する手立てを施すことは不可能であり、顔の見える小規模のコミュニティにおけるやり取りに適した方法である。

(三)口座方式
口座方式とは、地域通貨の残高を事務局などの運営者が集中的に管理する方式である。
口座方式にもいろいろな方法があり、海外の古典的な事例の中には、事務局の留守番電話に参加者が取引の記録を残しておき、事務局は録音された内容をもとにパソコンの表計算ソフトに各参加者の残高を記録するという事例もある。また、小切手に馴染みのある欧州の地域通貨の場合、参加者が地域通貨用の小切手帳を持ち歩き、小切手を使って決済しているケースもある。

国内では、インターネットや携帯端末を利用して地域通貨をやり取りするシステムがすでに登場している。また、神奈川県大和市のようなICカードを活用した事例もあり、今後もITの活用が期待される。


なぜ地域通貨に取り組むか? ~目的別分類
それでは次に、地域通貨に取り組む目的について見ていこう。ここでは「コミュニティ志向型」、「プロジェクト志向型」、「経済循環志向型」の三つに分類する。

(一)コミュニティ志向型
コミュニティ志向型とは、地域の中で、住民間のつながりや近隣同士の助け合いを促進することを目的とするものである。地域コミュニティのつながりが希薄になるといわれる中で、地域住民相互の関係を再構築し、互いに助け合って安心して暮らせるコミュニティの必要性を感じる人は少なくない。住民間のやり取りに現金を支払うのは億劫なことでありかえって角が立つおそれもある。そこで、地域通貨を使って、地域の中に住む人どうしがそれぞれの特技や知識、時間など、それぞれの手持ちの資源を交換することで、地域コミュニティのつながりを作り出そうとするのである。

コミュニティ型の事例を二つ紹介しよう。
兵庫県宝塚市の宝塚NPO支援センターでは、二〇〇〇年四月より「ZUKA」に取り組んでいる。「ZUKA」は三回の実証実験のあと、有効期限を特に設定しない本格運用に入った。高齢者の話し相手、パソコンの教えあい、車の送り迎えなど、さまざまなサービスのやり取りに利用されている。宝塚市の郊外には宅地化が進み新住民の多い地域も多いが、近隣同士のつながりづくりに一役買っている。また、企業を退職したサラリーマンが地域社会に“デビュー”する際の架け橋にもなっていると言う。ZUKAの参加者は五〇〇人以上に上る。

同じ兵庫県でも山間部の氷上郡で流通する「未杜」の場合は、コミュニティづくりといっても少しニュアンスが違う。地縁、血縁による人間関係が緊密な同地域においては、既存の関係にとらわれない新しいネットワークをつくりたいという思いから地域通貨に取り組んでいるという。農家なども含む一二〇人が参加している。

 地域のつながりが希薄なところでも濃密なところでも、コミュニティ志向型の地域通貨は新しい人のネットワークづくりを目的として活動している。

(二)プロジェクト志向型
プロジェクト志向型とは、個人を単位とする相互扶助というよりも、むしろ地域の公共的・公益的な活動(プロジェクト)を支援することに軸足が置かれている。環境保全やまちづくり、イベントやお祭りなど、地域にはさまざまな活動があるが、往々にして人手不足・資金不足に悩んでいるケースが多い。そこで、こうしたプロジェクトに対して、ボランティアとして協力したり寄付金を支払った人に対して、貢献の証しとして地域通貨を発行することで、プロジェクトを活性化させようとすることがねらいである。

プロジェクト志向型の例として東京を中心に活動する「アースデイマネー」が挙げられる。地球環境や社会問題に貢献するプロジェクト(主体はNPOや市民団体、個人など)の中から、個人が支援を希望するプロジェクトを選び、寄付やボランティアによって協力する。寄付に対しては一対一の割合(一〇〇円に対して一〇〇r(アール))で、ボランティアに対しては一時間の作業につき五〇〇rを目安に発行され、参加する約三〇の商店で利用できる。

秋田県峰浜村の「桃源」は、定期的なメンテナンスが必要な茅葺きの古民家の修復に一役買っている。茅葺き屋根の修復活動に参加したボランティア(多くは秋田市をはじめ村外から来訪)に対して、一日につき一〇〇〇桃源が発行される。桃源を利用すれば住民が提供する郷土料理を食べたり、修復した古民家に宿泊できるようになっている。茅葺き屋根をすべて職人に依頼すると場合によっては数千万円の額になるが、ボランティアと地域通貨を組み合わせることではるかに小さい額で茅葺き屋根の修復を実現している。

(三)経済循環志向型
経済循環志向型とは、文字通り地域の中で、あるいは、地域通貨に参加する個人や事業者間で経済循環を促進させようとするものである。スイスで流通する「WIR(ヴィア)」は、世界でもっとも巨大な地域通貨のネットワークと言えるものだが、ここには六万社の中小企業が参加し、年間およそ十八億スイスフラン(約一四四〇億円。一スイスフラン=八〇円で換算)相当の地域通貨が流通しているという。運営者のWIR銀行は国の法律で認められた正式な銀行だが、驚くべきことに企業は地域通貨「WIR」で融資を受ける。地域通貨のネットワークはそのままビジネスネットワークへとつながっており、企業間決済にも活用されている。


地域通貨は現金と交換できるか? ~換金性の有無について
 筆者がしばしば受ける質問に「地域通貨は日本円と換金できるのか」というものがある。答えは、地域通貨によって異なっており、換金できないものが大多数であるが換金できるものも存在する。そこで、地域通貨の仕組みの中でも重要なポイントとなる「換金性」について触れたい。

(一)換金性のない地域通貨
 お金では表現できない価値を表現し、お金とは違った動きをすることが地域通貨の持ち味である。したがって、地域通貨の大半は、法定通貨とはまったく別の系統であり、換金性がないものである。

しかし、換金性がないからといって無価値であるとは限らないというのが地域通貨の考え方だ。むしろ、地域通貨によって交換することができる他の参加者の技術や手助け、知恵、一緒にすごす時間、リサイクル品や手作り品など、いろいろな交換可能性がある限り、地域通貨には価値があると考えられる。

この場合、交換できるモノやサービスの量が豊富にあり、その質が高ければ、地域通貨の価値も豊かになり、流通も活発になる。また、地域通貨に参加する人が対等な立場でギブアンドテイクの意識を持って通貨の流通に参加すれば、地域通貨が円滑に回っていくであろう。

一方で、このような大らかな仕組みが成功するためには、必要十分といえる量と質のモノやサービスを地域の参加者一人ひとりが提供する体制を作り上げられるかどうかにかかっている。また、理想的なギブアンドテイクの関係が崩れ、一部の人に通貨が偏るようになると、容易に相互不信に陥ったり、流通がストップする恐れもある。したがって、こうした仕組みを支えるためには、運営者の強力なリーダーシップや参加者を増やすための日々の努力など、底辺を支えるための労力が少なくない。

 換金性がない点では同じだが、上記よりもやや手堅く地域通貨を運営する方法がある。それは現物との交換可能性を保証する通貨である。

「デリ・ダラーズ」という米国の事例はその典型例である。これは、「デリ」という惣菜店が店の改修のための資金繰りに困り、一〇ドルと額面に書かれた「デリ・ダラーズ」を店の得意客に対して一枚八ドルで販売した。店主と顔見知りで信頼関係もある顧客はデリ・ダラーズを購入し、惣菜店は店舗改修に必要な五千ドルを調達した。店の改修が終了して開店した後、顧客は店でデリ・ダラーズを利用すれば、一〇ドル分の惣菜が購入できる。顧客は二ドルの得というわけである。

「デリ・ダラーズ」というから通貨のように聞こえるが、これは日本でも随所に見かける前払い式証票の簡易版であり、あるいは、一種の私募債のようにも見える。それにしても、この「デリ・ダラーズ」は分かりやすい。何しろ、店頭に並ぶ惣菜が価値の裏づけになっているという明快さがあるからだ。いわば、「惣菜本位制」ということができようか。

 こうした事例は、日本でもいくつか見られる。代表例を挙げれば、みそ本位制(長野県美麻村「縁チケット」)、わらび本位制(岩手県西和賀地域「わらび」)など、多くは地域の特産品を本位とした例が多い。ユニークなところでは、別府の「湯路(ゆーろ)」が“湯本位制”と称して温泉に入浴できることを価値の裏づけとしている。

(二)換金性のある地域通貨
 換金性のある地域通貨は、仕組み上、商品券と類似したものであるが、相違点は、商店が受け取った際、商品券であればすぐに領収処理をして換金するところを、地域通貨の場合は商店がお金のように次に利用する可能性がある点だ。

北海道留辺蘂町は、政府の構造改革特区の提案として、町内で発行される地域共通商品券を複数回流通させ、地域通貨とする提案を行った。財務省や金融庁における検討の結果、現行の法制度の枠組み内で、商品券の複数回流通が認められるという判断から特区として特別の指定を受けなかったが、地域の商品券を通貨のように複数回流通させることが全国どこでも可能であるという判断は、今後、他の地域にとっても参考になるだろう。

 東京都練馬区のニュー北町商店街の地域通貨「ガウ」も換金性のある通貨だが、ここではその活用法に工夫が見られる。商店街では頻繁にイベントや街路の飾りつけなど、街の活性化のための活動を行っているが、これまでは商店主だけで運営していた。そこに地元住民のボランティアの参加を呼び込み、住民とともに手づくりの運営に取り組むようになった。例えばクリスマスシーズンの街頭イルミネーションは、従来は電気事業者に設営を委託していたが、近年は地域のボランティアに参加を呼びかけている。その際、事業者に支払っていた予算の浮いた分を原資として地域通貨をボランティアに支払う。現金であれば近隣にある大手ショッピングセンターで利用される可能性もあるが、地域通貨であれば必ず商店街の中で利用される。ここでは単にお金を囲い込むというだけでなく、商店街と一般住民との交流の中で地域通貨を活用している点が重要である。

金融機関が地域通貨の運営に部分的にではあるが携わっている事例もある。山形県高畠町では、町の商業協同組合が一九八五年以来「ワン券」と呼ばれる地域商品券を発行している。このワン券をベースに地域の商店街や農家など、地域内の循環をつくりだすことを目指して地域通貨の実験に取り組もうとしている。地域通貨の交換業務は地元の第一信用組合が請け負っている。ワン券を換金する際は、現金ではなく預金口座の残高に振替される仕組みだ。

カナダのトロント市で流通するトロントドルは、カナダドルからトロントドルに換金した際、一〇%を地域のNPOなどに寄付し、残り九〇%を原資として確保する仕組みだ。商店が再びカナダドルに換金すると一〇%が目減りするため、換金せずにそのまま流通させようとする気持ちが働く。また、カナダの大手銀行CIBCのトロント通り支店では、カナダドルからトロントドルへの交換業務を窓口で行っている。

 換金性のある地域通貨は、商店の参加が得やすいのはもちろん、商店・事業者間での相互の流通を促進することで経済循環の促進と同時に、事務局での換金業務を軽減でき、従来の商品券と比較すると事務コストを削減できるなどの利点がある。

ポイントの進化形態としての地域通貨
こうした地域通貨の考え方は、一見目新しい仕組みのようにも思われるが、実はすでに多くの企業が取り入れているある仕組みに近似している。それは、すなわち、顧客に対して発行する「ポイント」のことである。ポイントはいわば企業が独自に発行する「企業通貨」と捉えることもできるのである。

ポイントは、企業の視点から発行される通貨である。例えば、商店であれば買い上げ額に応じて、航空会社であれば搭乗距離に応じて、顧客の購買行動に対してその都度付与されるものだ。割引のようにその場で決済が完了する仕組みと違って、ポイントは継続的な消費を喚起し、顧客との関係を維持することに寄与する。

このようなポイントの考え方を地域やコミュニティに応用したものが地域通貨ではなかろうか。地域通貨の場合、通貨を発行するのは、地域住民、NPO、あるいは自治体等であり、そこには公共性・公益性の視点が入ってくる。したがって、通貨が発行されるのは、ボランティアや寄付、手伝いや知恵の提供など、地域に対する何らかの貢献がなされたときである。

企業のポイントの場合、顧客が貯めたポイントは企業の商品を入手することに利用する。ポイントが一定の水準に達すると商品が購入できたり、マイルをためれば飛行機に乗ることができる。これに対して、地域通貨の場合、その用途もさまざまである。他の参加者が提供するいろいろなモノやサービスと交換できる場合、商店が参加しており割引や特典が得られる場合、ある特定の商品や特産品と交換できる場合など、その交換可能性は通貨によって異なっている。

 ポイントは、企業にとって、顧客の継続的な消費を促進し、顧客のなかに忠誠心を芽生えさせ、顧客の囲い込みを図るための仕組みである。さらに、顧客の個人情報や購買履歴などを把握すれば販売促進や商品の改善にも活用できる。多くの顧客を相手とする企業にとっていまやポイントはなくてはならないマーケティングの必須アイテムとなった。

地域通貨は、NPOや自治体などの公共的な活動を行う主体が、企業が先行するマーケティングの発想をうまく取り入れながら、自らの活動や施策を効果的に進めたり仲間づくりをするための貴重なヒントを提供しているように思われる。地域通貨は、人びとが寄付やボランティアなど社会貢献につながる行動を起こすためのきっかけやインセンティブとして活用できるのではないだろうか。


地域金融機関と地域通貨 ~ ビジョンとしての“コミュニティ銀行”
 日本円を取り扱う一般の金融機関にとって、これまで、地域通貨は、近いようでいて遠い存在であった。しかしながら、地域通貨は、地域通貨だけの世界に閉じられたものではない。むしろ、ヒト、カネ、モノ、情報などの地域資源の循環を円滑にし、社会的に必要とされながら既存の仕組みでは十分に地域資源が行き渡らない部分に地域資源を配分する新しい社会システムと捉えるべきである。そこには、当然、「円」の配分も重要な鍵を握ってくる。

地域金融機関が地域通貨に取り組む際に考えられるひとつの方法は、地域コミュニティへの寄付やボランティアを募り、地域づくりに寄与する“コミュニティ銀行”を創設することである。

NPOや市民活動に対して先進的な支援策に取り組んでいる自治体の中には、地域活動を支援する中間支援型のNPOやその活動を支える施設が整いつつある。しかし、こうした場や組織は整っても、NPOや市民団体に対するファイナンスの側面に関しては、従来の補助金・交付金の枠組みを踏襲したままである。また、NPOに対する融資事業を検討する金融機関もあるが、従来の金融ビジネスの枠組みからすれば、資本はもちろん土地などの有形資産も持たないNPOへの融資は事業に乗りにくいだろう。むしろNPOへの資本提供は、受益者である多数の市民が小口に持ち寄る形の方が似つかわしい場合も十分考えられる。

ここで言う“コミュニティ銀行”のラフイメージは、NPOや市民団体の情報発信を積極的に行い、地域のNPO等と住民、事業者とが交流を深めながら、市民からの寄付や出資を募る場所である。もちろん、ここには、コミュニティビジネスなど地域づくりにつながる小規模事業者も視野に入るだろう。

地域通貨は、こうした出資に対するインセンティブとして発行される。これを地域通貨ではなく債券とする考え方も当然あるだろうが、債券というと、原則は元本を保証し、返済をコミットする証券という印象がある。しかしながら、活動の内容が公共性・公益性が高い一方で、事業性は必ずしも十分に保証できない活動も、社会には数多く存在する。ここでの評価基準となるのは、事業性や利益の配当ではない。むしろ、活動のパフォーマンスであり、定量的というよりは定性的で新しい価値を創造したかどうかが決め手になる。

このような活動に関して、金銭面だけを偏重した債権・債務の関係を発生させることは、お金を受ける側も出す側も、ともに望んでいないことである。
そこで、出資に対して地域通貨を発行することで、金銭的な見返りに関する期待水準をあえて当初から低く設定し、ゆるやかな貢献の証しだけを提供する。当該事業が収益や生産などの何らかのアウトプットを帰結させたら、地域通貨の量に応じて出資者にリターン(金銭ではないモノやサービスも含む)を提供することができるが、仮に成功しなくても、地域通貨は協力する企業や商店などで利用したり、個人間で流通させるなど地域の中で吸収することができる。それぐらい寛容なシステムだ。

このような“コミュニティ銀行”の運営は、組織形態としてはNPOのような中立的な体制が望ましいが、実務面では金融機関が手を貸すことが十分に考えられる。

地域通貨を、既存の経済学の枠組みや金融論の技術的な視点から見ると、実に矮小で周辺的なものに見えてしまうこともある。しかしながら、社会全体の配分構造や社会政策の視点から地域通貨を見たとき、いまはまだ形として現れていない可能性やヒントをそこに見出すことができるのではなかろうか。地域通貨が日本国内で急速に広がっている背景には、その予感を感じ取る人が少しずつではあるが広まっていることを示唆しているのかもしれない。


(初出:「リージョナルバンキング」2003年11月号)