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進化する地域通貨

 

地域通貨との出会い
 地域通貨という仕組みに、私が最初に出会ったのは一九九八年のことだった。当時は、インターネットが急拡大している時期で、IT革命ということばも耳新しい時期。就職したばかりの日本総研という職場では、インターネットと並んでICカードの存在も大きなトピックスだった。

 いまでこそ交通機関でもコンビニエンスストアでも一般的に普及しているICカードだが、当時はまだ世間に出回る以前の段階だった。だから、これからICカードが世の中に登場すると想定して、具体的にどのような使い道を提案できるか、それがシンクタンクの知恵の絞りどころ、ということになっていた。

 まったくの偶然で私に担当があてがわれたのが地域通貨だった。おそらく、電子マネーなどの厳格で専門的な分野と違って、駆け出しの社員にはうってつけの材料だったのだろう。嵯峨君、ちょっと地域通貨について調べてみてくれないか、ということで、社会人一年生の慣れない手つきであれこれ調べたものだった。

 そのころはまだ日本語の情報が不足していたので、英語のサイトを参照することが多かった。日本にたまたま居合わせたカナダ人と連絡を取り、講義をお願いしたこともあった。海外のメーリングリストなどにも入るだけ入って、情報収集をした。生半可な状態ではあるものの、その成り立ちや現状について、ぼんやりとしたイメージまでは捉えることができた。ところが、その担当していた調査が、開始から数週間というときに、他の業務の都合などで中断となり、ICカードの話題も棚上げになった。地域通貨について調べたことも、一時的にお蔵入りとなってしまった。それにともなって、しばらく、自分の中からも地域通貨の話題は後景に遠のいていた。


「お金」に対する不信感
 お金、という話題は、いつの時代にも多くの人の関心事であることには間違いないと思うが、特に世紀末の日本はお金そのもののあり方について、さまざまな方向から議論された時期だったように思う。

 ちょうどバブルがはじけたあとで、そもそもお金とは何かということについて、多くの人が漠然とした疑問や不信感を持つようになっていた。村上龍氏が絵本という表現を通じて問題提起した「あの金で何が買えたか?」を筆頭に、お金に対するモラルや仕組みなどについてもう一度問い直そうという機運が高まっていた。

そこに、ITというもうひとつの要素が加わり、「電子マネー」というまったく別の切り口からお金の新しい形態についての提案がなされたりして、お金をめぐる話題は華やかさを呈していた。

 こうした時代の雰囲気の中で「エンデの遺言」というテレビ番組が登場した。

曰く「重要なポイントは、例えば、パン屋でパンを買う購入代金としてのお金と株式取引所で扱われる資本としてのお金は、二つの全く異なった種類のお金であるという認識です。」

このメッセージは、個人の生活や暮らしといった目線からもう一度お金について捉えなおすべきだという共感を広げ、具体的な方法論としての地域通貨という手法を、鮮烈なかたちで提示したのだった。

 「エンデの遺言」の放送と相前後するように、日本国内の各地で地域通貨の動きが徐々に立ち上がってきた。当時まだ二〇ないし三〇という数にすぎなかった地域通貨が、数年後には全国に三〇〇を超すまでに発展したことは、あまり多くの人が予想していない出来事だった。


ところで、地域通貨とは?
 遅ればせながら、ここで、地域通貨に関する一般的な定義などについて押さえておこう。

 地域通貨をひと言で定義付けるならば「特定のエリアやコミュニティの中で利用できる価値の表現および交換のための媒体」といえる。地域通貨の対義語は「法定通貨」で、これは、文字通り国が法で定めた通貨、すなわち、円やドルなどのようにその国内ではあまねく流通することが前提となっている通貨である。これに対して、地域通貨は、その運営にかかわる主体がNPOや市民による任意のグループ、あるいは地方自治体や商工会などさまざまである。

 やや大雑把な括りだが、地域通貨の使い道には、次の三つの使い道がある。

①個人間の物品やサービスの相互交換
隣近所の人どうしやたまに集まる仲間どうしで何かお互いに手伝ったり、中古品などをやり取りする際に使う方法。好意でしてくれたことに対して現金で支払うのは気まずい、といった場面や、お互いの仲間意識や「お互い様」という気持ちを確認するためのよりどころとして地域通貨を利用することができる。

②社会貢献やまちづくりの促進
NPOの活動や地域のまちづくり活動などに参加したり、協力した人に地域通貨を手渡す方法。地域通貨を配布することで、参加者のモチベーションを高めたり、参加意識を高めるねらいがある。街のごみ拾い、花植え、壁の落書き消し、里山の整備、山の植林など、ありとあらゆる活動の場面に適用できる。

③地域内におけるお金の囲い込み
特定の地域内に限り流通する地域通貨の性質を利用して、地域内でお金の流れを囲い込もうとする方法。商工会や商店街がこの方式に取り組んでいる例が見られる。

 このように、ひと言で地域通貨といっても、いろいろな使い方がある。また、実際の地域通貨は、例えば、上記でいう①と②の使い方を組み合わせていたり、②を目的としながら結果的に③のような効果を生み出すこともありうる。



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