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地域通貨の実践上の諸課題と活性化のための方策

 

地域通貨の実践上の諸課題と活性化のための方策
嵯峨 生馬
Challenges and Breakthrough Solution for Community Currency Practitioners
SAGA, Ikuma

0.はじめに
 特定の地域やコミュニティでのみ流通し、法定通貨で表現することがむずかしい価値をやり取りする際につかわれる価値の媒体 ―― 地域通貨に対する注目が集まるようになって久しい。数年前は耳慣れなかった地域通貨という言葉も人口に膾炙した感がある。
 と同時に、地域通貨の効果やその将来性については、まだ疑問に思う人も少なくないだろう。果たして地域通貨はどこへ向かうのか。
本論では、まず地域通貨の発展のなかで現状認識を共有したうえで、地域通貨の3類型について提示する。そのうち、日本国内で既に一定期間の実践を経ていると考えられる「コミュニティ志向型」と「プロジェクト志向型」の2つについて、それぞれの理念や効果と現状の課題を挙げ、それらの課題を乗り越えるために実践・考案された解決策について整理する。

1.地域通貨の歴史と現状認識
 19世紀前半におけるロバート・オーウェンによる「労働証明書」の実践、1930年代における世界恐慌後の経済不況化における欧米各地における経験など、過去の歴史の中で、しばしば地域通貨が勃興した時期がある。現在、日本で注目される地域通貨は、「第三の波」とも言うべきもので、その源流は1980年代初頭にさかのぼるものである。
 1982年の冬から翌年の春にかけて、カナダのバンクーバー島で生まれたLETSと呼ばれる仕組みは、地域交換交易システム(Local Exchange Trading Systems)の略称で、文字通り、地域の中で参加者が互いに提供する物品やサービスを取引するための仕組みである。当時18%という高失業率に悩んでいたバンクーバー島のコモックスバレー地域では、LETSはたちまちに受け入れられ、創設者のマイケル・リントンの言葉を借りれば「まるで奇跡のよう」に広がったという。
 その後、地域通貨はニュージーランド、オーストラリア、英国をはじめ欧米各地に広がりを見せ、日本でも1990年代初頭に、さわやか福祉財団が介護や身の回りの世話をした時間を貯蓄し、将来必要なときに他の人の助けを受けられる「時間預託」の取り組みを始めた。また、福祉分野に限らず、幅広く地域の助け合いやコミュニティ活動などに利用する、本格的な地域通貨は、1990年代後半から日本の各地で取り組まれるようになった。
 日本における地域通貨の普及に大きな影響を与えたメルクマールとなるのが、1999年に放送されたNHK特集「エンデの遺言」である。この番組は大きな反響を呼び何度も再放送され、番組に触発されて地域通貨を始めた実践者は少なくない。
 「エンデの遺言」から早6年が経ち、現在、日本国内には約300~400種類の地域通貨が流通していると見られる。  昨今では大学入試センター試験に出題されたり、小学校の教科書で取り上げられるなど、以前とは比較にならないほど地域通貨という言葉は市民権を得た感がある。
 このように、地域通貨の認知度は格段に高まったと言える。一方で、地域通貨によって実現された効果や地域通貨に参加する人の広がりについては、疑問符をつける人も少なくない。実際、地域通貨について「知ってはいるが、持ってはいない、参加したことはない」という人が圧倒的に多いのが現実だろう。
 認知度の高まりと参加者の伸び悩みというギャップの中にある日本の地域通貨。こうした状況をいかに乗り越え、地域通貨はどのように次のステップへと発展していくだろうか。

2.地域通貨の3類型
 筆者は、地域通貨を大きく3つの種類に分けている。ひとつが「コミュニティ志向型」で、これは、地域社会や近隣、あるいは、近い考え方をもつ仲間どうしが、互いの親睦や相互扶助を目的として地域通貨を流通させるタイプのものである。ここでは個々人がサービスを提供しかつ利用する主体となる。ふたつめが「プロジェクト志向型」で、これは、ある目的や目標を掲げるまちづくりや社会貢献活動の活性化を目的とするもので、ここでは、こうした活動にボランティアとして参加したり金銭的に支援したりするなど、何らかのプラスの働きをした個人に対して地域通貨が発行され、この活動に協賛する商店等で地域通貨が利用できるなどの点が特徴である。3つめは「経済循環志向型」で、企業間取引などにも利用され、事業活動にも利用されることをめざすものである。消費の活性化を目的とした商品券事業などを除けば、実質的な経済循環にまで踏み込んだ地域通貨の取り組みは、現時点では国内ではあまり見られない。
 こうしたなかで、特に、前二者のコミュニティ型とプロジェクト型については、近年、各地で実践が積まれ、現実的な課題や、その解決策などの「経験知」が蓄積されつつある。
 そこで、まずコミュニティ志向型から、効果や課題、その解決策などについて見てみよう。

3.コミュニティ志向型の課題と活路
 典型的なコミュニティ型では、参加者が「できること」と「してほしいこと」を出し合い、それらをリスト化して参加者に配布する。しかし、それだけでは地域通貨が動かないことが、数年間の実践を通じて分かってきた。確かに、いくら同じ地域通貨の参加者とはいえ、見知らぬ人に連絡を入れ、身の回りのことなどを手伝ってもらうには抵抗がある人が少なくないのだろう。そこで、コーディネーターを配置する地域通貨もあるが、今度は運営の負担がコーディネーターに一極集中するという新たな課題が持ち上がった。これらは、これまでの実践を通じて学んできた教訓である。
 コミュニティ型の地域通貨は、その由来からして「個」を単位とした流通が前提となっており、いかにして「個」が判断し、自らサービスを選び取ったり提供しながら互いに地域通貨をやり取りさせていくかが鍵を握っている。コミュニティ型の成功パターンとして、ここでは2点指摘したい。

①寄り合いを通じて親睦を深める
 ひとつの方法は、地域通貨の参加者が月1回など定期的に集まる場を用意しておき、その場に集まったときに互いの自己紹介や四方山話などをするうちにお互いが親しくなるところからスタートするやり方である。こうした場で、まずは「顔の見える関係」をつくり、その上で、個別に地域通貨をやり取りする約束をするという順番である。対面で話をすることは、広報誌やホームページで伝えるのと比べて格段に情報量が多いことは言うまでもない。また、地域通貨のやり取りについてはその場に集まった人が自分たちで決めるようにすることで、主催者は情報をとりまとめたり、コーディネートにとらわれる時間と労力を極小化できる。
 定期的に集まる場を設けることで、地域通貨の参加者の風通しをよくし、通貨の流通を促進できる。

②プロフェッショナルを単位とする
 もうひとつの方法は、地域通貨をつかって交換するものを、インフォーマルなサービスよりは、円で売買しても遜色ないような財やサービスのやり取りと、位置づけを定める方法である。世界的に有名なアメリカニューヨーク州の「イサカアワーズ」は、農家、デザイナー、翻訳家、アーティストなど、事業者として独立した個人が多数参加しており、提供するサービスの内容はプロフェッショナルなレベルのものである。
 「個」として自立し、十分なスキルを持つ人を単位とすることで、参加者どうしが対等な立場に立てば、地域通貨が流通する基盤が整うのである。


4.プロジェクト志向型の課題と活路
 コミュニティ型以上に、日本国内では、まちづくりや社会貢献活動の活性化を軸として流通する「プロジェクト志向型」の地域通貨が発展している事例を数多く見かけるようになった。
 茅葺き屋根の修復、海岸の清掃、森林の整備、農作業の手伝い、雪かき、ごみ拾い、資源回収への協力、文化ホールの運営など 、およそ思いつくありとあらゆる活動に地域通貨を活用する取り組みが広がっている。
 こうした地域通貨の基本パターンは、それぞれの地域通貨が掲げる目的にそって、想定される行動のメニューが用意されてあり、それらの行動を行った人に対して地域通貨を付与する。地域通貨は、趣旨に賛同する商店等で割引や特典として利用できるなど、何らかの特典と交換できるという流れである。
 そこに参加する一人ひとりの個人がサービスの受け手であり出し手であるというコミュニティ型と異なり、プロジェクト志向型の場合、地域通貨の参加者間で役割分担が生じる。こうしたことの結果として、プロジェクト型では、商店等に地域通貨が集中・滞留してしまうという課題が顕著となる。商店からいかに地域通貨を流通させるかは、この仕組みを持続可能なものとするために解決すべき課題となっている。なぜなら、商店等が地域通貨の受け入れ先となる地域通貨では、つまるところ、地域通貨の価値が商店等によって支えられているといっても過言ではないからだ。

 商店等一部の参加主体に滞留した地域通貨をいかに円滑に流通させるか。これは、プロジェクト志向型の生命線ともいえる部分だが、その解決策として次のような3つの方法を指摘したい。

①再流通させる
地域通貨の理念に照らして考えれば、お店も地域通貨に参加する一主体であり、地域通貨を受け取るだけでなく積極的に地域通貨を利用することが理想的である。しかしながら、現実的には、地域通貨に参加する商店の多くはまだ意識の上で地域通貨を「受け入れる」ところまではいっても「利用する」ところまでは至っていないのが現状である。
 商店等による地域通貨の利用方法としては、仕入れや調達といった業務上の取引における利用も考えられるが、これまで完全に日本円で取引され、また、決済方法も現金払いとは限らない分野で地域通貨を利用することにはまだまだ敷居は高い。
 より現実的な方法として、例えば環境に配慮した商品を購入したり、店のアンケートに協力したり、あるいは、レジ袋を断った顧客などに対して地域通貨を再配布するなど、従来とは異なる新しい顧客との関係を築くための仕掛けとして活用する方法が考えられる。ただし、こうした方法についても、実現させていくためには個別の商店を口説くという地道な努力が求められる。それなりの労力を覚悟する必要があるだろう。

②最終的な交換物を用意する
 地域通貨の流通を促進するための第二の方策として、通貨の運営主体が、地域通貨の最終的な利用価値を担保する仕掛けを確保する例が各地で登場している。
 典型的な事例は岩手県西和賀地域の「わらび」である。その名の示す通り、この地域通貨は、同地域の特産品であるわらびを価値の源泉として発行されている。遊休耕地を活用してわらびを育て、見込みとして期待される収穫量に相当する地域通貨を発行しているのだ。商店等に貯まった地域通貨は最終的にわらびと交換できることから「わらび本位制」の地域通貨と呼んでいる。わらびは地域住民にとって親しみのある食材であるだけでなく、地域の旅館や食堂などが利用する「必需品」であるため、共通の価値観として機能している。また、西和賀以外にも、こうした地元色豊かな「本位制」を導入する地域通貨は国内随所に見られるようになってきた。
 最終的な交換物を確保することは、商店等が地域通貨をこれらの物品と交換できるという実利的メリットだけでなく、地域通貨の価値が特定の物品と結び付けられることで価値基準がわかりやすく、地域通貨の普及にも寄与する。

③減価の活用可能性
 第三の方法として、残高に負の利子をかけ、時間の経過に伴って残高が目減りしていく「減価」の仕組みを活用することが考えられる。減価は、地域通貨を滞留させている参加者から通貨を半強制的に回収する方法として着目されている。
 2004年度に総務省が主導して構築した「地域通貨モデルシステム」 ではITを利用した口座システムをベースとしている。  ここでは、地域通貨を大量に保有する参加者から効率よく通貨を還流させるため「累進的減価」の考え方を取り入れている。一定額までは減価を行わず、一定額を上回る残高を保有する利用者に対して減価をかけるといった運用が可能である。

 このように、地域通貨を流通させる方策にはいくつかの方法が考えられるが、いずれの方法も試行錯誤の段階であり、今後も実践を通じて知見が蓄積されていくことであろう。

5.まとめ
 このように、日本でも地域通貨についての認知が高まり、各地で実践が積み重ねられる中で、地域通貨の効果を高めるためのノウハウも徐々に蓄積されてきている。
 地域通貨は、その仕組みそのもののよしあしを語るところから、より現場に近いところで実践される細かな工夫へと、関心の焦点が移動しているように思われる。今後も、こうした細かな経験の積み重ねが、地域通貨を育てていくことになるだろう。
 前述したような、歴史上の、あるいは、海外の地域通貨の中には、法定通貨に取って代わるほどに強力な地域通貨も存在するが、日本国内で、現状の日本円を基盤とした経済環境を前提とするとすれば、地域通貨という仕組みそのものにセンセーショナルな何かを求めることは難しい。
 むしろ、日本において地域通貨が普及していく鍵となるものは、そこに参加する人の「満足」ではないだろうか。
 実際、この論において活路として紹介してきた個々のポイントは、とりもなおさず、参加者の満足を高めるための方法であるという一点において共通している。コミュニティ型の地域通貨では、参加者どうしが互いに地域通貨をやり取りする機会が増えることが参加者の満足につながるだろうし、プロジェクト型では商店に滞留する地域通貨を還流させることが、商店の満足を高めることにつながるだろう。したがって、地域通貨運営者にとって留意することは、「通貨だから流通させなければならない」というような大上段に構えた理論ではなく、「参加者の満足を実現するにはどうしたらよいか」という実践的で個別具体的な視点である。
 本文中で紹介した事例には多くないが、全国各地で、地域通貨をやることそのものが目的化しているような事業を散見することも事実である。しかし、地域通貨をやること自体が目的となることはない。むしろ、地域通貨を通じて、地域の住民の満足を高めることが本命であり、そのためには、地域通貨という仕組みを導入するだけでなく、その仕組みがよく動くようになるための仕掛けが必要である。そうしたことを、それぞれの地域が一生懸命に考えることが、いい地域通貨をつくりだすことにつながる。また、そうした努力を通じてこそ、運営者自身も地域通貨に取り組んだことの意義を確認することができるはずである。