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企業とNPOとの人事交流は可能か?

 

日本でNPO法人の制度が立ち上がった十数年前、NPOは新しい雇用の受け皿となり、日本の経済活性化に寄与する側面もある、と謳われていた。当時は、それが絵空事に聞こえるほど、現実には、長いこと、そのような状況は実現しなかった。多くのNPOは小規模な財政で運営され、専従職員を1名雇うのがやっと、3名職員がいれば“大きな”NPOと言われるような状況が続いてきた。

 ところが、ここ最近は、かつての「予言」が次第に現実になりつつある。もともと職員がいなかったNPOには職員が1人雇用され、1人だったところは3人の組織になり、3人だったところは6人になり、10人だった組織が50人の組織に発展したようなところもある。

着実に増える「NPO職員」
 米国の統計では、労働者人口の約8%がNPO職員であるという。これに比べれば、日本はまだまだだが、それにしても、職業が「NPO職員」という人は着実に増えている。
 こうした状況は、私自身にも当てはまる。私が代表を務めるサービスグラントは、かつてはほぼ1人で取り組んできたような活動だったが、助成金の支援を機に組織化を図り、次第に2人、3人とスタッフに恵まれ、今ではインターンを含めると10人の組織になった。気が付くと、毎月の給与だけでも、かつては考えられなかったお金が固定費として発生するようになり、私自身は、プレイヤーからマネジャーへと立場をシフトしつつある。NPOの代表には似つかわしくない称号だが、冗談半分に「社長!」と呼ばれる立場になった。NPOとはいえ、一つの経営体としての組織運営が求められるようになったのだ。

 NPOで働く人の数が少しずつ増えているということは、私のような立場にあるNPO経営者も増えているということを意味する。そして、私が最近特に強く必要性を感じるのが、スタッフをどのように育成するのか、そして、組織の基盤をどのように構築していくのか、である。
 NPO職員の中には、企業での職務経験がない、もしくは、少ないスタッフもいる。特にNPOで働く若い人たちの中には、大学からそのままNPOに入ったり、企業経験が短い人も多い。私のように七年間企業で働いたあとにNPOにシフトした人間からすると、企業のよい点も課題点も知ったうえでNPOに飛び込んだという自覚があるが、若い人には、企業とNPOとを比較して今の仕事を選び取る、というプロセスを経験していない人もいる。日々のNPO活動にやり甲斐を感じながらも、彼らの中には、このまま一生NPOで働くのだろうか、という漠然としたキャリアへの不安があるようにも見受けられる。

NPOの「人事」という課題
 ところで、これまでのNPO支援活動といえば、寄付やボランティアが中心だった。そこに、筆者の運営するサービスグラントは、「プロボノ」という切り口で、仕事のスキルを活かしたNPO支援活動を始めた。そこからさらに一歩進んで、この先求められるNPO支援の一つが、NPOの「人事」にまつわることではないかと感じている。
 先ほど紹介したようなNPO職員が抱く漠然とした不安には、いくつかの背景がある。ここでは二点に絞るが、一つは、NPOの多くが、評価制度や賃金体系が十分整備されていないことだ。自分の仕事がどのように評価され、評価された結果、次にどのようなキャリアが待っているのかが分かりにくい。もう一つは、NPOと民間企業との間での人材の流動性が低いことだ。もう少し正確に言えば、私のように企業出身者がNPOを始める、NPOに飛び込むというケースはよく聞くが、NPO職員から企業に転職したという人は、ないわけではないが、珍しい。NPOから企業へと人材が動くような流れが確保されていないと、NPOへの就職が片道切符のように思われ、よほど覚悟がなければ近寄れないような仕事だと思われてしまう。

企業とNPOの「交換留職」
 最近「留職」というキーワードが出回っている。NPO法人クロスフィールズは、国内企業の社員を、新興国などにあるNGOに一定期間送り出し、現地でプロジェクトを任せるプログラムを提供している。新興国での実務経験を積むとともに、それまで培った業務スキルがどこまで通用するかを試すことで、社員の育成を図ることがねらいだ。また、スープストックを展開するスマイルズと星野リゾートは、両社の社員を3ヵ月間にわたり「交換留職」し、相互の職場を経験させる取り組みを始めた。
 前者の事例は国内と海外、後者の事例は国内の企業間の事例だ。このような「交換留職」が国内の企業とNPOとの間で実現するようになれば、お互いの風通しもよくなるのではないだろうか。
 企業にとってみれば、NPOという小さな組織に関わることで、さまざまな経験を得ることができる。企業では当たり前のような制度や仕組みが、決して十分とはいえないNPOで、組織の基盤自体を一緒に作っていく経験をすれば、企業がどのようにして今ある状態を築き上げてきたのか、その意義を深く理解することができるかもしれない。組織のサラリーマン化を嘆く経営者にとって、社員をNPOに送り出し、何かしらの実績を作らせることは、創業時の初心に立ち返るための特効薬になるかもしれない。
 NPOのスタッフにとっても、日頃の少数のメンバーに囲まれた環境ではなく、様々な部署や組織との調整が必要な企業での働き方を経験することは、調整力や説得力、チームワーク、リーダーシップ等の幅広いスキルを高める格好の機会となるだろう。
 こうした人事交流の取り組み自体が、NPOの基盤強化につながる貴重な支援となる。社会貢献や企業の社会的責任といわれると二の足を踏む会社でも、こんな人事交流なら、検討の俎上に乗りはしないだろうか。

【出典】繊研新聞 2013年1月30日