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ファーマーズマーケットのある風景

 

 昨年四月から開始した都心のファーマーズマーケット「アースデイマーケット」がじわじわと成長している。

 これまで、都心で農家さんたちと出会い、彼らが作った野菜を直接手にする機会は皆無に近かった。
 無農薬やオーガニックにこだわった良心的でフレンドリーな農家さんが集まり、そこに無添加の加工品の生産者、フェアトレード雑貨等が加わり、約50店が軒を並べるアースデイマーケットは、日ごろの消費生活では得がたい価値を提供する場といえよう。日曜日の代々木公園には、多いときで2万人を超す来場者が買い物かごやマイバッグを持参してやってくる。みな、バッグからはにんじんの葉っぱや泥の付いたねぎなどをはみ出させながら。


マーケットのある風景
 アースデイマーケットには、食をテーマに農家さんと消費者とが直接出会い、和やかにコミュニケーションする風景が生まれている。こうした姿は、人工的な構造物が支配する都市空間においてこそ高い価値をもつものだし、多くの都会人はそうした潤いのある場を望んでいるのではなかろうか。

 アースデイマーケットは、今年、代々木公園を飛び出して、東京都内の各地でマーケットのある風景を作り出しはじめている。

 皮切りとなったのは今年6月の汐留。日本テレビが主催した「日テレエコウィーク」イベントの一環としてアースデイマーケットが汐留の高層ビル群の中にある広場に出現した。グレーの建造物の中に、竹で作った手づくりのテントが並ぶようすは、ミスマッチのようでいて絶妙の調和をかもし出す。無農薬の野菜を手に触れられることは、同イベントのコンセプトである「タッチ・エコ」を体現する内容となり、天気予報やバラエティー番組も特別にその日はマーケットを背景に放送された。

 7月は、先般ノーベル平和賞を受賞したゴア元米副大統領が呼びかけた、地球温暖化防止のメッセージを伝えるイベント「ライブアース」に出展。さらに、9月には表参道ヒルズで2日間、10月には東京ミッドタウンが主催する「ミッドマーケット」にも参加した。

 さらに、11月には東京臨海部のある大型団地内でアースデイマーケットの開催も予定している。周辺にコンビニやスーパーマーケットしかない中では、昔の八百屋さんが持っていたような人間くさい雰囲気はなかなか感じられないだろう。「マーケットのある団地」という集合住宅のあり方は、今後、住民にとって「住みたい街」としての付加価値を高めていく有効な選択肢であるように思われる。


ファームツアーも実施
 単に農家さんに都心に来てもらうだけではない。
 今年は、アースデイマーケットに来る農家さんを訪ねる「オーガニックファーム・スタディツアー」も始めた。日帰りのコンパクトな日程で複数の農場を視察して回る研修型のツアーだ。ゲストにはオーガニックの食材を店に取り入れている飲食店シェフや経営者を招き、経営という視点からオーガニック食材の取り扱いなどについて講義する。参加者の半数以上は将来カフェを開きたい、農作物流通をビジネスにしたい、といったビジネス志向の人が集まった。訪問先の農家では、さっそく店で使うので「ナスを五キロ!」と注文する人もいた。

 身近な場所でがんばる農家さんたちから、確実で安心な食材を手に入れられる。そんな回路が生まれていくことが、このツアーのねらいである。と同時に、そうした食材を使いこなし、農家さんとの対話を通じて紡いだストーリーを顧客に対しても語れるような面白いお店が東京にもっと増えて欲しい、という思いもある。


リアルな出会いを創出すること
 昨今、食への信頼を揺るがすさまざまな問題が起きているが、一因は、巨大化しすぎた流通が物事の流れを見えづらくさせてしまったことの裏返しともいえる。

 多少プリミティブなようでも、農家さんと消費者とが直接出会う場、農家さんと飲食店が直接つながる回路など、ネットや書物を介さないリアルな出会いの機会を意識的につくることが、食の分野にはことさらに求められているのではないかと感じる。

 アースデイマーケットの来場者アンケートでは「また来たい」という回答する人が95%近くに達する。そのことが何かを物語っているのではないだろうか。


(初出:繊研新聞)