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サービスグラントの「費用対効果」

 

 これまで何度かに渡ってこのコーナーで紹介した、サンフランシスコのNPO、タップルート・ファウンデーション。金銭による助成金(グラント)ではなく、広告やマーケティングのプロフェッショナルスキルを助成する「サービスグラント」のプロジェクトを、年間100本以上運営していく高度なマネジメントスキルには目を見張る。

 それにしても、いかにしてサービスグラントが「事業」として成立するのだろうか。サービスグラントそのものは、デザイナーやプログラマーのボランティアによって成り立っており、NPOから金銭的な収入を得て行うものではないはずだ。(この点が、右ページで紹介したサステナの事業モデルと異なる点である。)現在、タップルートには6人の専任スタッフがいる。年収7万ドルを稼ぐ代表のアーロン・ハースト氏はじめスタッフの人件費、サンフランシスコの一等地に確保した事務所費等は、どのように工面しているのであろうか。

 その答えは、ごく月並みな答えかもしれないが、他の財団の助成金によって成り立っているのである。

 それでは、タップルートはなぜ助成するに足る団体なのだろうか。
 最大の理由は、助成金の費用対効果であるように思われる。
 タップルートによれば、1件のサービスグラントに要する実経費は3,000ドル。これに対して、1件のサービスグラントにつき、NPOが受け取るサービスの内容は、デザイナーやマーケッターの人件費を仮に1時間100ドルという控えめな金額で見積もったとしても15,000~50,000ドルに相当する。実際に広告会社が見積を出したらもっと高い値段がつく内容のサービスだろう。この時点で、3,000ドルの助成金がその5倍から15倍以上の効果を生んでいることになるのだ。

 しかも、サービスグラントを受けたNPOは、出来上がったカタログなりホームページなりを活用して更なる資金調達を行うことができる。力強いパンフレットは力強いマーケティングツールとなり、新しい資金を引き寄せる。サンフランシスコのあるNPOでは、サービスグラントによってできたカタログの効果で、寄付金の実績を前年の倍近い水準まで引き上げることができたという。つまり、NPO自身も資金調達力を身に着けるのだ。

 このように、タップルートに助成することは、NPOに直接助成する以上の費用対効果を生む可能性がある。NPOの資金調達ニーズに対応するのではなく、NPOの資金調達能力を育てる。実際、タップルートのサービスグラントを経験したNPOは、自らの活動のポジショニング(位置づけや特長)をより明確に意識するようになり、また、一般の個人に対してどのようなメッセージを発するべきかについてより注意を払うようになるという。NPOは単にサービスグラントを受け取るだけでなく、サービスグラントには、NPOを成長させる力があるのだ。

 寄付や助成金のマーケットがアメリカ以上に小さく、NPOが発展途上にある日本においては、まず何よりも、NPOのことが数多くの一般の人に分かりやすく伝わることが大切だ。そこにはコミュニケーションのテクニックが有効だ。多くの人を動かす広告の力がNPOに味方することで、NPOに対する理解をもった社会的土壌の形成につながるのではないだろうか。


(初出:「ソトコト」/スローマーケティング講座は「ソトコト」の連載企画として掲載されたものです)